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里見公園新聞

里見公園新聞 第57号 2009年8月13日  発行:木ノ内博道


緑に包まれた里見公園
■朝鮮から徴用された人たち
 国府台・里見公園入り口の一帯には朝鮮から徴用されてきた人たちが多く住んでいる。ぜひ話を聞いてみたいものだと思いながら、その人たちにとっては重い話であろうし、延ばし延ばしにしてきた。
以前から知っている尹きぬ子さん(稲毛在住)に国府台の話を聞かせてほしいとお願いしたところ、何人か詳しい人をご紹介していただけることになった。また、尹さんご自身から、次のようなお話をうかがうことができた。
――国府台病院から里見公園の方に入った左側には、戦後まもなく何十軒もの朝鮮の人が住みました。30数年前、おしぼり屋から出火して焼けたために、よそに住む人もでて、いまは少なくなりました。戦後すぐに住んで、もやし工場をはじめた人はいま他の土地で食品会社をやっています。リヤカーでくず屋をやっていた人も多かった。くずの問屋をやっていた人は土地をたくさん持っていたので、あとでアパートを建てました。戦後の混乱したときにはどぶろくを造って、豚足やホルモン焼きを出して飲ませていました。取り締まりに警察が来たときにはどぶろくの甕を割って流してしまいました。モノがなければ捕まえることはできませんからね。もったいないと割らないでいた人は甕ごと引っ張られていきました。

■市川・松戸時代の子山ホーム
 千葉県いすみ郡にある社会福祉法人チルドレン・パラダイスから「子山ホームだより」が送られてきた。51号で、発行は平成20年5月19日。施設長の森田雄司さんを存じ上げているので、その関係で送っていただいたのだろうと思って開いてみたら、理事長の大橋信雄さんが原稿を寄せていた。いつかぜひ大橋信雄さんには会ってみたいものだと思っていたので、とてもありがたかった。しかも原稿のタイトルは「市川・松戸時代の子山ホーム」とある。これはぜひとも転載をさせていただきたい。
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 私は昭和35年より42年間勤めた子山ホーム園長を6年前に引退して現在は理事長として法人全体の仕事に携わっています。
 私がはじめて市川市国府台にあった子山ホームの事務所を訪ねた時、山小屋風の建物に案内された。それ以来、その事務所の一室に4年間家族で住むことになった。周りは畠が広がり隣には乳牛の牛舎があり10頭ほどの乳牛が飼われていた。その奥にはしょう酒な山小屋風の二階建が建っていた。それが、エーネ・パウラス先生の自宅であった。畠の向こうにはちらほらと子供達の住んでいるホームが見えた。本当に牧歌的な眺めだった。当時創刊されたばかりの女性週刊誌「女性自身」に女優の佐久間良子さんがモデルになり、日本にある外国風景としてグラビアに子山ホームが紹介されたことがあった。
 市川市国府台から松戸矢切にかけて点在するホームには江戸川沿いの高台にあり対岸の東京を一望でき、その夜景は宝石を散りばめた様な見事のものであった。国府台のホームから江戸川へ降りると、そこは細川隆の歌で有名な矢切の渡しの渡船場であった。
松戸の矢切にあるホームは伊藤左千夫の小説『野菊の墓』で有名な場所の傍らにあった。また江戸川の対岸には「ふーてんの寅さん」で有名な葛飾柴又であった。エーネ・パウラス先生はこの地に家庭を失った子供達のために温かい家庭的環境を与えようと一般的な日本家屋を購入して小舎制(分散小舎制)で各小舎が完全に独立した普通の家であった。ホームの周りには草花が沢山植えられ、各ホームの中も競ってきれいに整頓し、見学者等が異口同音にきれいだとほめてくれた。
各ホームのママさん(保育士)の殆どが所帯持ちでママさんの家庭とホームの子供達が一つの家庭として仲よく生活していた。
ご主人のいるママさんのホームはパパさんと呼び、パパさんは昼間は東京や千葉へとホームからお勤めに出かけていた。
夕方ホームの小さい子供達が3〜4人でバス停までパパさんを迎えに行き、パパさんがバスから降りてくると大喜びでパパさんの手を奪い合いパパさんの両手に子供達がつながって並んで歩く姿を夕陽が照らしてうしろに長い影を残して歩く光景は、すばらしい一幅の名画を観ている様であった。
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 本紙12号13号には大橋氏の奥さんの文章を紹介している。奥さんは里見公園周辺を説明してくれているが大橋信雄氏は矢切のあたりに思い出があるらしい。
 この一文で大橋氏が伝えたいのは、エーネ・パウラス先生が家庭的な環境で養育していたことであろう。この頃、多くの児童養護施設は戦後の浮浪児対策で、大人数を擁する大舎制だった。それは現状にまで続いている。それに比べて、子山ホームは現在でも小舎制をとっている。
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